アル中探偵“マット・スカダー”の苦悩、『ローレンス・ブロック』の傑作「八百万の死にざま」。〈今週のオススメ本〉

今回の〈今週のオススメ本〉は、『ローレンス・ブロック』の「八百万の死にざま」。

アル中探偵“マット・スカダー”のシリーズ5作目で、『ローレンス・ブロック』の代表作。
アメリカ私立探偵作家クラブ賞受賞作。

“マット・スカダー”シリーズは、ここから読み始めても問題なく読めるというか、逆にここから読んだほうがいいかも。

優秀な警官だった“マット・スカダー”が、捜査中に謝って子供も射殺してしまい、警察を辞職、妻子と別れ、酒浸りになり、アル中、そして無免許の探偵に。

正直読みやすくはないし、主人公がカッコいいわけでも、劇的な展開がある訳でもない。
ただ“スカダー”が抱える危うさや不器用さ、ニューヨークという街の描写、そして魅力的な「会話」。

運ばれた病院で「あなたはアル中です。飲めば死ぬんです」と言われても、自分自身認められない“スカダー”。
そして、この街には“八百万の物語”があって、“八百万の死にざま”がある。

この本は依頼された事件を通してもがく、“スカダー”の苦悩や葛藤、成長の物語。

ラストの描写まで辿りついたとき、“スカダー”の再生が始まる。

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ハードなスカダー“倒錯三部作”

これを読んだあとに、前4作を読んでもいいし、個人的にはこの後に出てくる“倒錯三部作”にも圧倒される。

“倒錯三部作”は“マット・スカダー”シリーズの中では、けっこうハード描写で、「八百万の死にざま」とは一線を画す内容。
ただサイコ的な話なのだが、“スカダー”のハードボイルドの絶妙なトーンは失われていない。

この三部作、「墓場への切符」「倒錯の舞踏」「獣たちの墓」では、「八百万の死にざま」にも少し出ていた“エレイン”や、“ミック・バルー”、“TJ”など、以降の大事なレギュラーたちが出てくる。

探偵という立場でありながら、法の外にもはみ出し、警察では解決できないことをする。
いわば私的制裁にも積極的に手を貸していく。

けっこなどぎつさだが、“マット・スカダー”シリーズの中でも大事な3冊。

『ローレンス・ブロック』は、他にもシリーズ物を多く書いている多作な作家。
どれも趣旨が違って面白く、“泥棒バーニイ”シリーズと、“殺し屋ケラー”シリーズもオススメです。

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